Upton House

アプトン・ハウス

ナショナル・トラスト所有

2001年7月2日訪問  (12月20日記事追加)

所在地  イングランド中部 ウォリックシャー
お勧め(出来ないけれどやむを得ない)宿泊地  バンベリー
(ロンドン、メリルボーン(まれにパディントン)鉄道駅からバーミンガム・スノーヒル方面行き列車にて、バンベリー下車。1時間40分程度。)
公共交通機関 パンベリーからの直通バスは殆どない。
少なくとも片道はタクシー利用となる。
案内所でタクシーリストを入手すること。
公開日(2001年度) 3月末日から10月末日までの連日、木、金曜以外の1時から5時。

バンベリーはオックスフォードに程近い、交通の要所。地図を見定めて、幾つかの庭めぐりの拠点としてここを選んだのだが、正直言ってこの町は大外れ。

 

バンベリーからアプトン・ハウスへの遠く曲がりくねった道のり

(行き着くまでがやたら長いので、興味がない方はここまで飛ばしてください。)

 案内所に着いて、初めて恐ろしい事実が判明した。庭巡りの拠点としてこのバンベリーを選んだ訳だが、ここは何ともバスのアクセスが悪かった。何よりも驚いたのは、ナショナル・トラストのガイドブックに出ていたアプトン・ハウスへのバス便は、まだ庭が開いていない早朝に1便、そして土曜の遅くにしかない。こんなバス便をガイドブックに乗せたナショナル・トラストも調査が足りない。

 案内所の人は、近くの村までバスで行き、そこからタクシーを呼ぶ方法を提案してくれた。他に行けそうな庭や村の時刻表を探したりと随分親切ではあったのだが、私が欲しかったバスの総合時刻表はないのだと言う。いくつものバス会社があるので、バス会社ごとの時刻表はあっても、総合時刻表はないのだそうだ。おかしなことだ。例えばヨークなどでは、複数のバス会社の路線をまとめた路線の時刻表が案内所で入手出来る。観光都市としてやって行く気があるなら、こうした点を改善する必要がある。

 バンベリーは最近になって急速に発展した産業都市であり、周辺の人気がある町に押されて、観光客を引き付ける魅力に乏しいのでサービス業には投げやりなのかもしれない。ビジネス客はサービスが悪くとも利用せざるを得ないからだ。

 10時54分頃、安いフィルムを探して歩いていたら、2個買うと2個ただになる、と言うものを発見。5.98£で4巻入手。これは結構安いと思う。

 庭巡りの計画を立てる為に、この付近の地図が欲しいと思ったが、本屋がなかなか見つからない。案内所には確かにあったので、あそこで買ってくるべきだったと思うが、今更戻るのも面倒だ。案内所は町の中心からかなりずれた位置にあり、何よりも悪いことに、バス・ステーションや鉄道駅のある反対側にあるのだ。結局、見つけた本屋で地図と何枚か絵葉書入手。合計4.29£。

 シャンプーが残り少なくなっていたので、サマーフィールド(スーパーマーケット)に入り、1.99£で買う。これを持って庭に行くわけだし、なるべく軽そうなものを選ぶ。本当は帰ってきてから買うのが良いのだが、その時刻には店閉まっているので仕方がない。

 アプトンハウスの近くの村まで、12時22分発のバスに乗ることにして、それまで町を見て歩いた。この間に家に電話する。と、肩にヨウムを乗せた浮浪者風の男性を発見、興味津々で後をつける。ショッピングセンターに入ったので、反対の道を通って偶然を装い近くに寄る。イタリア名前の付いた洒落たカフェに入ったところみると浮浪者ではなかったのかも。近くの席に座って眺めようかとも思ったが、やめて引き返す。このカフェは覚えておいて後で寄ろうと思った。

 12時20分少し前にバス・ステーションに行ってバスを待つが、それらしいバスは一向に来ない。傍らにあった小さな事務所に入って尋ねると、どうやらそのバスは一番奥の何の番号もついていないスタンドから発車したらしい。全部のスタンドに目を配っていたつもりだが、そこは表示がない為、予備のバスが停まるところだと思って除外していたのだ。けしからん、何の表示もなかった、と言うと、別のバス会社が運営しているので自分は関与していないのだと、中年の人品いやしからぬ男性はこうのたまった。確かにその通りかも知れないが、これって、一般の利用者にあまりに不親切だ。むっとしたので、わかったと言い置いて事務所を後にする。すぐ後で頭を冷やして考えたのだが、ちょっと態度悪かったかな。少なくともThank youのひとことだけは言っても悪くはなかった。特にバスの事務所など、いつまた用が出来ないとも限らないのだから。(事実、そうなった。)

 腹が立った勢いで、中心街に戻る。珍しいことに客待ちのタクシーが列を作っている。先頭の中近東人に、アプトン・ハウスまでどれくらいかと聞いたら、12、3£だと言う。よし、やって貰おう。言っていることがあまりわからないのだが、パキスタン人で、働きに来ているそうだ。それって正式のものなのか、もぐりか。途中で田舎特有のこやし臭さが車内に充満。料金のメーターの動きは意外に遅い。が、道は思ったよりも遠いのだった。

 ゲートに入り、正面に建物が見えてきた。開場の1時にはまだ数分あるので、ここで停めてくれと言い、残りの少しの距離を歩くことにした。11£だったので少しは節約になったかな。しかし、ケチな客だと思ったろうな、パキスタン人。

 

ようやくアプトン・ハウス

(やっぱり戻るひとはここ。)

 ハウスに着いたのは開いた直後で、ナショナルトラストの入会証を見せて入った。ハウスの中はイタリア絵画が中心と言うので、あまり好みではないと思っていたが、予想に反して非常に美しい。

 この建物で最も印象的だったのは、地下にあった緑色の孔雀石のテーブル。金色のバロック風の周囲の飾りは金属ではなくて木だと言っていた。壁に沿って置かれた、長方形のごく小さなもので、上に確か馬だと思ったが、飾りが載っている。大層美しいが、何とも悪趣味でグロテスクな代物だ。装飾の為の装飾。係の女性にこれ好きかと聞いたら笑っていた。やっぱりねー。

 この建物は火災にあって1930年頃に大改造されたそうだ。地下のビリヤードルーム、大量に展示された陶磁器類なども珍しい。地下の壁の、吹き抜けの高いところに、見覚えのある肖像画がかかっているのでもしやと思って尋ねたら、やはりチャールズ1世の王妃のヘンリエッタ・マリアだった。後で、階上の係の女性に、下で見たヘンリエッタ・マリアの肖像画が美しかったと言ったら、この先にももう1枚彼女の絵があると言う。吹き抜けになった階段の上にかかっているその肖像は何だか少し違和感がある。画家が違うせいだろうか。そう言えば、ヘンリエッタ・マリアの絵って、いつもヴァン・ダイクだものなあ。この絵の女性はむしろナポレオンの母のように見える。そう思いながら眺めていたら、ここの係の男性の話によると、肖像画はヘンリエッタ・マリアではなくて、シャーロット王妃だと言う。え、ジョージ3世の妃の。ナポレオンの母に似ていると感じたのも道理、同時代人なのだ。先程の女性が聞いていたらしく、間違って教えちゃったわ、ごめんね、と言っていた。案内人の言葉を鵜呑みにするのは結構危険である。

 そう言えばここの展示で非常に美しい男性の肖像画を見た。トーマス・ハーディとあるので、何だろうと思ったら、これは画家の名前だと言う。「小説家のトーマス・ハーディとは別人だ」と言うので「他にもいたでしょう。ネルソンのハーディ、「キスしてくれ、ハーディ」のあの人もトーマス・ハーディでしょう」とつい調子づいてしまった。まあ、平凡な名前ではあるよな。

 2時15分頃ホールに戻る。庭を見たかと言うので、まだだと答えると、行き方を教えてくれた。左がティールーム、右がギフトショップ、その間の道を真っすぐ進んで奥。建物の外に出て右に庭があったのだが、最初良くわからず、左に進んだら、建物の正面入り口の横(建物に向かって左側)に出てしまった。改めて戻り、トイレの場所を尋ねると、駐車場にあると言う。これがまた建物から離れているのだ。全く、イギリスの庭にありがちの、徒歩で来るもののことを考えていない構造である。実にけしからんが、一応後のことを考えてトイレにいっておく。

 

窓辺に満開のつる薔薇。見ていてちょっと気恥ずかしい感じだが、なかなかきれいだった。 左手見えない辺りに階段状の花壇がある。この辺りはロックガーデンらしい。

 

窓辺のつる薔薇の下には青いフラックスが花盛り。 そして銀葉のラヴェンダー。花はこれから。(館に向かって左手のテラス) 向かって右側、階段の柱の上には多肉植物、周囲には白薔薇が。

 

 さて、いよいよ庭だ。入ると目の前に開けるのは一面の芝生。そう思って近づくと、突然眼下に階段状の庭が現れるというだまし絵の庭だと聞いていた。が、見ると肝心の境の部分、縁に沿ってこぼれ種の植物がぼしょぼしょと生えているので、そこが境だということがばれてしまうのだった。どうせなら、ここ刈った方が良いんじゃないの?

何もない芝生の連なり、に見えるが実は…。 縁に生えているバレリアンのせいでよく見ると境界線がバレバレ。

 ところでこの緑の芝生の境界近くに、よりにもよって太った若い女性が腹ばいになって手紙を書いている。芝の上やベンチに座るというのなら別に悪くないか、この光景は非常に見苦しい。一体何を考えているんだろう。自分の存在が、他の訪問客の目を汚しているという自覚はないのだろうか。

誤解がないように書いておくが、これはこの女性の外見が見苦しいといっているのではない。もしも、この場にベンチがあって、そこで書き物なり、読書なりをしているのであれば、景色を眺めるにはちょっと邪魔、と思いつつも不快な気持にさせられるという程のものではない。
だが、公共の場所で、しかもその景色のハイライトに当たる部分にだらしない格好で存在するというその行為は、これとは全くことなるものである。普通の神経があるとは到底感じられないので、この行為は社会秩序への挑戦か、何か特殊な思想でも抱いているのではなかろうとか、と疑いたくなるのであった。「公共良俗に反する罪」と言う法律があってしかるべきだな。

 見下ろした階段花壇についてであるが、すぐ真下の花壇は植え替えの途中なのか、見事なハゲ状態で、大いに失望させられた。仕方なく、視線を遠くに転ずると、ゆったりと流れる川と向こうの丘陵の様が開けてこちらはなかなか良い眺め。まあ、完璧を求めるのは無理か。

階段花壇の上から見下ろしたところ。花壇は植え替え途中でハゲ状態。 それでも下に向かうに連れて美しい。 かなり下ったあたり。岩組みの間に育つラヴァテラ、背景の背が高いのはイギリス人のお気に入り、リーガル・リリー。
階段状の花壇を下る。これは館に向かって左側(川に向かって右側)。 長いボーダー花壇。庭師が作業中だった。中央に光るのは川。 川沿いのキッチンガーデン。

 最初の印象がいまひとつ良くなかった階段状の花壇であるが、下に降りるにつれ、段々と賑やかになってきて、それ程失望するには当たらなかった。向かって右手の下に当たる部分、中央に子供姿の牧神の像を置いた小さなバラ花壇がある。白と淡ピンクで統一されたなかなか雰囲気の良い庭だ。グルース・アン・アーヘン、ナタリー・ナイペルス、ナイペルス・パーフェクション、アプリコットなんとか、チャイナ・ローズなどが満開だ。

小さな薔薇園の色彩はピンク、白の薔薇と銀葉の植物で統一。背景の丘との間に川がある。 確かナタリー・ナイペルス、もしかしたらナイペルズ・パーフェクション。
川沿いの低地にはキッチンガーデンが。アーティチョークと背景はブラックベリーの花。 川に向かってゆるく傾斜するボーダー花壇。
庭の果ての崖ップチから彼方の丘陵を望む。下にちらっと覗くのが「断崖の上のバレリアン」。 きれいに花盛りだった階段の花壇。白いベンチもペンキ塗りたての初々しさ?!

 それよりも上の部分にあるオールドローズのボーダーは流石に盛りを過ぎていたが、オフィキナリス、ロサムンディなどは満開で見事だ。他に恐らくカーディナル・ド・リシュリューらしいもの、アルバ種の大株もあった。

 一番下に当たる川沿いの部分はキッチン・ガーデンで、丁寧に誘引されたラズベリーやブラックベリーの姿が面白い。ラベルもついているし、なかなか端正なキッチン・ガーデンである。

 川沿いは殆ど自然の状態で、巨大な葦状の植物に覆われている。どうせなら、ここにアヤメなどを植え付けたら見事なのに、と思ったが、余計なお世話だろうか。草ぼうぼうのこの状態が良いと考えているのかも知れない。尤も単に手が届かないだけ、と考えたほうがありそうだ。しかし、巨大なグネラはやめて欲しい。怖いよ、これ。モックオレンジの大木も見事だ。

 最初のうちはそれ程でもなかったが、次第に湿度が高くなってきて、恐ろしい程に暑苦しく、本当にばったり倒れそうな気分になってきた。もう駄目だ、引き上げようかと思った時、下の方向に日陰の庭があるらしいのでそちらに行ってみた。谷のようになった部分に小さな池があり、周囲に例のグネラをはじめ、カンパニュラなど日陰の植物を植え込んである。奥の少し高くなった部分にはロッジもあるが、これは非公開のようだ。道具立てはいかにも涼しげだが、暑くて多湿なことは否定出来ず、へとへとになりながら坂を上がり、ティールームへたどり着いた。冷たいものと考えたけれど、結局熱いお茶を頼む。1.1£でたっぷり2杯入っているのが有り難い。少し元気が出てきた。ゆっくり手紙でも書こうかと思ったが、その気力がない。そろそろバスの時間が近づいてきたので、もう一度トイレに行って、ペットボトルに水を汲む。ここのトイレで水を飲んで元気回復。ゲートへと向かう。

 改めて門の正面から見ると、奥に見えるハウスの姿は壮大さも感じられず、これといって美しくもないのが残念だ。

 道の反対側で、バンベリーに戻るバスを待つ。5時07分のバス、ちゃんと来るか心配だったが、有り難いことに(当たり前だが)ちゃんと時間通りにきた。片道で2.20£、結構子供が乗っている。先程のタクシーはこの道は通らなかったようだ。途中の村々が実に美しい。なかでも見事にバラが咲き誇っている村があり、せめてこの村だけでも後で訪ねてみたい、と時刻表で調べてみたが、このバス便も滅多にないのだった。

 バス・ステーションに戻ったバス、さてどこに着くかと思ったら、果たして一番奥のコーナーに着いた。朝もここから出たのだろうな。黄色とグリーンの派手なバスだ。それにしても、何で標識がないのだろう。全く訳がわからない話だ。

 町はもう閉店時間で、妙にひっそりとしている。シャンプーを買っておいて正解だった。広場のベンチに座って記録をつける。結構涼しくなってきたのが有り難い。

 

蛇足

 バスの時刻表を見ていて気づいたのだが、アプトン・ハウスのバス停は「エッジヒル・アプトン・ハウス」とある。そう、あの有名なピューリタン革命時の「エッジヒルの戦い」の戦場はこのすぐ近くなのだった。この館が立っている丘陵も、地図で見るとエッジヒルの一部のようである。

 

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