Hinton Ampner
ヒントン・アンプナー
ナショナル・トラスト所有
2001年6月19日訪問
所在地 | イングランド南部 ハンプシャー |
お勧め宿泊地 | ピータースフィールドまたはウィンチェスター (前者はロンドン、ウォータールー鉄道駅からサウサンプトン方面行き、1時間10分程度、後者は同駅ポーツマス方面行き列車で1時間程度。) |
公共交通機関 | ピータースフィールド、ウィンチェスター間の路線バス |
公開日(2001年度) | 4月〜9月、月木金以外の1時から5時30分 |
ヒントン・アンプナーの名は、少なくとも私が知る限りでは日本の庭めぐりの本には出ていない。私も、ナショナル・トラストのガイドブックで見て、行ってみる気になった。実を言うとそれ程期待していなかった。が、なかなか面白い、感じの良い庭だった。
口蹄疫の為閉鎖されていた周辺の土地。
ピータースフィールドからは往復料金で確か3.9£(4.9£だったかも)。この辺りは平地続きだと思っていたら、意外なことに目の前に開けてきたのは丘陵地帯だった。どうやらこれがサウス・ダウンズと呼ばれる地形らしい。緑の野中に真っ赤なコモンポピーが咲くのどかな光景ではあるが、例によって田舎の細い道だ。バスは猛スピードで飛ばすのでかなり怖い。乗客はまばらな上に途中で皆降り、最後のひとりになってしまった。しかし流石は6月だけあって、どこの家の庭も美しい。はっとする程見事なのもあちこちにある。素通りするのが惜しい程だ。
運転手がバスを停めたのは、左手にHinton Ampner、4分の1マイルとある標識の前だった。このわき道の先にあるらしい。道は上り坂、舗装道路。左右にはぽつぽつと人家が続く。坂はきついと言う程の傾斜でもないが、天気が良くかなり暑い。
そのうち、目の前にゲートが見えてきた。フットパス閉鎖との貼り紙があちこちにある。口蹄疫の影響がまだ残っているようだ。ここは入り口ではないと書いてあるが、かと言ってどこから入ってよいかわからないので構わず先に進むと、向こうから年配の女性がふたりやってきた。ここの人かと思ったら、彼らも客のようだ。
道の右手には古くて由緒ありげな教会。その先にはあまり面白みがないジョージ王朝風の館が見える。右手には奇妙な整形式庭園。館の背後には塀に囲まれたキッチン・ガーデンがあるが、ここには入れない。前を通過して、北に向かうと地所の終わりに装飾的な壷が置かれているのが見える。足元には御馴染みのハーハ、そしてその向こうに開ける景色が心地良い。
ここから引き返し、館の反対側の庭へと向かう。庭は南斜面に開けている。地形のせいで風当たりが強いのか、まだ咲いていない花が多い。僅かながら桜が残っているところすらある。あちこちで咲く匍匐性カンパニュラの星型の花が見事だ。奇妙な形のトピアリーの列が続き、その向こうには緩やかな丘陵地帯が開ける。視線を受け止めるオブジェが遥か彼方にあるが、手前に注意書きがあってそこまではいけないのだった(最初の写真)。それ以外にも、至るところに現れて足止めを食わせる口蹄疫の注意書きが残念だ。
地形を利用した谷間の花壇には、巨大な装飾的植物が聳え立つ。白いアスチルベの穂が眩しい。特大のウドのような花。モックオレンジ(フィラデルファス)の小道には純白の花が咲き誇り、空気中に芳香が漂っている。遠い家畜の鳴き声と小鳥の声。絶えず吹き付ける風の音。館の傍らに穿たれた池に鮮やかな睡蓮の花が幾つも開いている。
天気が良すぎて日差しが厳しいので、専ら日蔭を探すようにして歩く。沢山のオールドローズがあったが、名前が付いているものが殆どなくて残念だ。日焼けしているのか、殆ど黒に見える美しい薔薇もあったが、これも正体がわからなかった。
敷地の北端にある装飾的な壷。向こうの景色はハーハの彼方の「借景」。 |
敷地の南東の隅から館を望む。 |
The Dell(谷)と名づけられた窪地は館の東側。白のアスチルベ他、巨大な装飾的植物がぎっしりの日蔭の庭。 | エルサレム・セージとゲラニウムが満開。 |
館の東側の池には睡蓮が。あまり面白みはないけれど、強烈な日差しの下、なんとも涼しげ。 | 整然と並ぶイチイたち。マグリッドの絵を見ているようだ。 |
奇妙な刈り込みが楽しい。 | 欲しいな、これ。 |
館の南面の階段。煉瓦の隙間にびっしりとローンデイジーが咲いていた。「岩の上の植物群」IIに是非載せなくては。 | |
館の南面、ハーハの彼方にダウンズの景色が。何の変哲もない、そして心和む景色。 | 教会近く「チューダー・ハウスの果樹園の地所」とある敷地。草はぼうぼうだが、トピアリーはきちんと刈られていた。 |
館の内部は1960年ごろに火災に遭った後、ジョージ王朝風に復元されたと言う。アダム様式風の雰囲気はその為らしい。失われた天井画は資料がないが、残っている装飾はオリジナルのものだそうだ。ドアの両側にフュースリらしい絵が2枚あったが、作者の名が書いてないので係員に尋ねると、資料を探した結果そうだと答える。ひとつは「冬物語」(シェイクスピア)の場面だという。では、描かれている女性はパーディタだろう。現代の園芸家の間では、イングリッシュローズの名としての方が通りが良いかも知れない。
17時12分のバスに備えて17時頃に出たが、意外に早くて5分程でバス停に着いた。往路は上りのせいか、もっと時間かかかったような気がしていた。おかげで早く着きすぎた。この道はピータースフィールドとウィンチェスターを結ぶ線だけあって、車がびゅんびゅんと走り抜けて怖い。道の両側は草ぼうぼうで立つ場所がない。傍らには小屋のようなバスのシェルターがあるが、中に入ると外が全く見えないので少し離れた先で立つ。車は相変わらず猛烈なスピードで走り抜けて行く。全く事故が起きないのが不思議なくらいだ。